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【科学】パラジウム化合物を使うことで、ミルク中の病原菌を高感度に検出する新技術を開発(森永乳業・研究グループ)

2016年9月23日、森永乳業の研究者 Soejima T. と Iwatsuki K. は、ミルクに混入する Enterobacteriaceae 細菌グループを迅速に検出・定量できる技術を開発し、権威ある科学雑誌 Applied and Environmental Microbiology にて発表した。

 

Enterobacteriaceae は、大腸菌などヒトに食中毒を起こす病原菌を含む細菌グループである。そのため、市場に供給されるミルクに Enterobacteriaceae が混入していないか検出することは、食中毒の予防の観点から非常に重要である。

 

液体に含まれる細菌の検出方法は、数多く存在する。

ただし、検出技術の多くは生きた菌(生菌)と死んだ菌(死菌)をいっしょくたに検出してしまう。

 

食中毒の予防を考えた場合、ミルクに混入している生菌のみを検出することが重要となるが、生菌のみを検出する技術の多くは問題点をもっており、いまなお開発途中であるといえる。

 

現在、生菌のみを検出する方法としては、エチジウムモノアジドという化合物を使い、PCR という基礎的な技術(※基礎的だが非常に素晴らしい技術)によって検出する方法がよく知られている。

 

しかし、この方法は作業工程が煩雑で、大量の検体を処理するのは難しいという問題があった。そこで、森永乳業の研究グループは、エチジウムモノアジドの代わりにパラジウム化合物を用いることを発想した。

 

パラジウム化合物は、死菌の細胞を用意に透過していくが、生菌の細胞は通過できず 、細胞内の DNA や細胞膜上のタンパク質と結合する。

この特徴を利用することで、Soejima T. と Iwatsuki K. は、生菌を検出するための技術として「パラジウム化合物を利用した PCR 法(Pd-PCR 法)」の開発に成功した。

 

この Pd-PCR 法ならば、ミルク 1 mL あたり 5 ~ 10 細胞という極めて少数の Enterobacteriaceae の混入であっても検出できることが明らかとなった。

これは、USA や EU の法令にも準拠できる高感度な手法である。

 

Pd-PCR 法は、エチジウムモノアジド PCR 法と比較して、高感度かつ低コスト、さらに操作が簡便であったため、大量の検体解析など今後の応用が期待されている。

 

~出典となった論文~

Innovative Use of Palladium Compounds To Selectively Detect Live Enterobacteriaceae in Milk by PCR

Soejima T. & Iwatsuki K. (Morinaga Milk Industry Co., Ltd.)

Applied and Environmental Microbiology (2016) 82: 6930-6941